クラウドによって企業が得られるメリットとは[09/09/11]

TIS主催 次世代IT基盤のロードマップを考える研究会
~クラウド新時代に向けて今IT部門がなすべきこと~
第1回 クラウド新時代に企業はどんなベネフィットを享受できるか
「”持たないIT”がもたらす企業価値を考える」

日 時 2009年9月11日
参加者 ITインフラの再整備について考える企業の情報システム部門リーダー 3名
主 催 TIS株式会社
ファシリテーター
株式会社ナレッジサイン 吉岡英幸
 TISでは、情報システム部門のリーダーが、自社のITインフラにおける課題を共有し、いずれ本格化する「クラウド・コンピューティング」の時代にむけて、あるべきITインフラの姿や、IT部門が今なすべきことについてディスカッションする『次世代IT基盤のロードマップを考える研究会』を発足いたしました。

第1回となる今回の研究会では、クラウド・コンピューティングによって企業が得られるメリットとは何か、そのために、ベンダー、ユーザー、双方がクリアしなければならない課題は何かについて、ディスカッションをいたしました。本レポートでは、研究会の議論の一部をご紹介いたします。

◆クラウドによるコスト削減効果
 ITを所有するのではなく、必要に応じてITを活用する「クラウド・コンピューティング」だが、ユーザーのITインフラ上の課題を解決する上で、どのようなメリットがあるのだろうか。また、クラウドがビジネスに貢献し得るとすれば、それはどのような点においてだろうか。クラウドに期待しているメリットについて、研究会参加各社の意見を聞いた。

まず、挙げられたのが「TCOの削減」である。1社だけでシステムを保持する場合、余剰分のシステムリソースも抱えることになり、様々な無駄が発生してしまう。しかし、クラウドサービスであれば、必要に応じてリソースを調達し、不要であれば返却すればよい。研究会参加企業によれば、常に適切な量のリソース調達が可能となることで、TCOの削減効果が期待できるのではないかとのことであった。

さらに、企業間でITリソースをシェアードするクラウドサービスの場合には、シェアードする企業の数が増えれば増えるほど、規模の経済によるコスト削減効果が大きくなることも期待できる。

また、TCOにおいて大きな割合を占めるのが保守・運用コストである。この保守・運用コストが不要となることを、クラウドのメリットとして期待している企業もあった。

従来のように、ITを資産として持つ場合には、システムハード、ソフトの購入時だけでなく、更改時に別途費用が必要となる。ところが、クラウドサービスが完全に従量課金で提供されることになれば、IT費用としては、使用したサービスの量に応じたランニングコストを支払うだけでよい。

研究会に参加していたある企業によれば、「これまで、システム更改時に大きなコストが発生するたびに、「このタイミングでIT費用が突然跳ね上がるのはなぜか」を経営陣に説明しなければならなかった」と言う。しかし、クラウドによって、完全な従量課金制度が実現できれば、そのようなコストは発生しないため、そうした説明が容易となることが期待できるとのことであった。

◆柔軟かつ迅速なビジネスに貢献するクラウド・コンピューティング
 コスト面だけではない。研究会に参加していた企業からは、クラウドに期待するメリットとして「ビジネスを柔軟かつ迅速に変化させることができる」点も挙げられた。

たとえば、研究会に参加していたある企業では、新規事業の立ち上げ時に、その都度ハードを揃え、システムの構築を行っていると言う。ハードを購入し、開発をし、テストし、本番環境を整えるまでにこれまでかかっていた時間が、クラウド化によりITの迅速な調達が可能となることで、短縮されることになる。「そうすれば、クラウド化には、ITコストの削減だけでなく、ビジネスを加速させ、収益の向上に貢献することも期待できる」とのことであった。

研究会に参加していた別の企業でも、クラウドにビジネスのスピードアップを期待していた。「開発環境が明日にでも準備できるとなれば、その部分でのリードタイムが短縮できるし、システムをリリースするときも、前もって、本番の環境を用意し、そこでテストができれば、そのリードタイムも短縮することができる。そうした個別の細かいリードタイムが削減されるだけでも、かなり異なるのではないか」とのことであった。

「ハードを購入してから、ビジネスの変化を考えると本当にこの能力でよかったのかと再考することもある。クラウドであれば、買って足りなければ買い足せばよい」(研究会参加企業)。クラウドによって、システムに制約されることなく、柔軟にビジネスを変化させることが可能になるのだ。

◆クラウドに対する疑問・不安点
 様々なメリットが期待されるクラウド・コンピューティングであるが、懸念点がないわけではない。研究会ではこの点についてもディスカッションがなされた。

まず、コスト削減効果についてであるが、上述したように、コストメリットを大きくするのであれば、クラウドサービスを使用し、システムをシェアする企業の数が多ければ多いほどよいことになる。その場合、クラウドサービス提供者に、ある程度の事業規模が求められることになるが、そのような事業規模が確保できるのかとの意見があった。

アマゾンやグーグルのように、既存の事業で使用しているシステムリソースを用いてクラウドビジネスを展開するのではなく、ITベンダーが新たにクラウドをビジネスとして提供するということになれば、データセンターへの大規模投資も必要となる。加えて、ハードウェア、ソフトウェア、OS等の保守更改の膨大な費用が発生する。結局このようなクラウドサービス提供者の負担するコストが価格に転化されるわけなので、相当のユーザー数が集まらないと、ユーザーにとって適性と思えるコストにはならないのではないか、という懸念が挙げられた。

これに対し、TIS IT基盤サービス企画部 部長の田淵秀氏は「ネットワークやストレージ、サーバーを可能な限り仮想化しコストを下げ、また、オープンソースを活用することで、特定のハードウェアやプラットフォームに依存せず、安価で独自の安定したプラットフォームを構築することを目指している」と述べている。

クラウド環境上のセキュリティについても、不安の声が聞かれた。グループ企業間でのプライベート・クラウドという環境であれば別であるが、パブリック・クラウドで、基幹系のデータなど、データの機密性が高いものをクラウド環境に置くことは難しいとの意見があった。

◆クラウド化可能な領域を切り分けるためにもIT基盤の整備が必要
 すべてのITシステムをクラウド化することはなく、システム全体の中でクラウド化できる領域を切り分けて活用する、というのが、参加企業の一致した意見であった。

「一番重要なシステムは、それぞれに相当の可用性を持たせ、仮想化で統合したサーバーには載せない、最も重要でないシステムは、できるだけコストがかからないようにするため、積極的にクラウド化する」(研究会参加企業)など、重要度によってシステムを何段階かに分類し、クラウド化する領域を切り分けていく。

そのためには、自社のIT基盤を整理しなければならない。また、将来的にクラウドサービスのメリットを最大限享受しようとすると、クラウドサービスに乗せられる形にインフラやアプリケーションを標準化していくことも必要となるだろう。

「まずは、アプリケーションの作り方を統一し、自社内でIT基盤の現状を整理し、整備・集約していく必要がある」(研究会参加企業)。

IT基盤の整備は大きな課題だ。仮想化技術などサーバーを集約・統合する技術が発展し、IT基盤を統一しやすい環境は整ってきているが、その作業は時間と根気が必要になる。

ある研究会参加企業によれば、IT基盤整備において「最も困難なのは人の問題」であると言う。「技術が変わることに人がついていけない恐れがある。仮にIT基盤を仮想化し集約できたとしても、社内の誰もメンテナンスができないということになりかねない」。

オープン化のシステムには様々な技術が入っているため、メンテナンス担当者が専門化され、固定化されてしまっている点も問題であると言う。人材が固定化されてしまっているため、IT基盤の整備が進まない、IT基盤の整備が進まないため、人材が流動化できない・・・という悪循環に陥ってしまうのだ。

今回の研究会では「クラウドという技術に対する期待と不安」を中心に議論を行ったが、次回の研究会では、クラウド含めたIT基盤技術の将来的な発展の恩恵を享受し、ビジネスが必要とするIT基盤を整備していくためには、どうすれば良いか、より議論を深めていきたい。

(文責:株式会社ナレッジサイン 森 天都平)

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