自社にとって最適なIT基盤再整備ロードマップの作り方[10/03/12]

【TIS主催】 次世代IT基盤のロードマップを考えるフォーラム
~クラウド新時代に向けて今IT部門がなすべきこと~
研究会総括 自社にとって最適なIT基盤再整備ロードマップのつくり方

日 時 2010年3月12日
参加者 ITインフラの再整備について考える企業の情報システム部門リーダー6名
主 催 TIS株式会社
ファシリテーター
株式会社ナレッジサイン 吉岡英幸
 TISでは、情報システム部門のリーダーが、自社のITインフラにおける課題を共有し、いずれ本格化する「クラウド・コンピューティング」の時代にむけて、あるべきITインフラの姿や、IT部門が今なすべきことについてディスカッションする『次世代IT基盤のロードマップを考える研究会』を発足いたしました。以後、これまでに東京にて4回、大阪にて1回の研究会を開催しています。

最終回となる今回の研究会では、これまでの議論の総括を行うとともに、自社にとって最適なIT基盤再整備のロードマップをつくる上で考慮しなければならない要因や、そうした要因の1つであるクラウド技術の今後の可能性と課題について議論をいたしました。本レポートではそのディスカッションの一部をご紹介いたします。

◆ロードマップの定義と4つの影響因子
 本研究会では、IT基盤再整備のロードマップを、「IT基盤全体のサービスレベルにおいて、目指すべきレベルを定めて、マイルストーンを設定し、時間軸で「いつ」「何を」するべきかを明確にした計画」と定義している。

これまでの研究会の議論からも明らかなことだが、IT基盤において何が「目指すべきレベル」なのかは、その企業が置かれている環境や考え方によって様々である。IT基盤再整備を進めるためのロードマップに正解があるわけではない。

研究会でも、「IT無資産化」といったIT部門全体のあり方をゴールにロードマップを定めている企業もあれば、「セキュリティ」「内部統制」といったITの課題ごとにロードマップを策定している企業もあった。また、アプリケーション更改やハードウェアの保守切れなど、システムライフサイクル管理上のイベントの管理と、その事前対策を定めた計画をロードマップとしている企業もあり、「ロードマップ」のスタイルは企業によって様々であった。

しかし、そうした様々なロードマップを見ていくと、そこには共通してロードマップの決定に影響を与えている、下記の4つの因子があることがわかる。

①ビジネスの変化
②IT部門のリソース/アビリティ
③システムライフサイクル上のイベント
④IT技術/サービスの動向

まずITは経営ビジョンとの整合性を求められる。つまり、①ビジネスの変化に応じて、ITに求められることも変化することになる。たとえば、市場環境の急激な変化や、M&Aなどによる大きな構造変革などが発生した場合には、求められるITのサービスレベルも急激に変化することになるだろう。

また、IT基盤のあり方は、現在、IT部門が持っている人員、予算、組織構成を含めたリソース、技術やガバナンスも含めたアビリティ(②IT部門のリソース/アビリティ)に制約される。

さらに、ハードウェアの保守切れや、OSのバージョンアップなど、③システムライフサイクル上のイベントが、ITのサービスレベルに影響を与える。IT部門は、システムライフサイクルに関わる問題がいつ発生するのかを、事前に整理して予測するとともに、その対策をロードマップに盛り込んでおく必要がある。

④IT技術/サービスの動向が今後どうなっていくかも、ロードマップの内容に大きな影響を与える。IT技術の進化には、採用している技術を急速に陳腐化させる負の側面と、新しい技術の登場によって調達コストが大幅に低減され、早期のゴール達成、ゴールそのものが上方修正されるというプラスの側面との両面がある。いずれにしても、ロードマップに今後の技術/サービスの動向が影響することは間違いない。

◆ロードマップ=ゴールの変化を計測するツール
 ②,③といった要因については、現時点であっても将来の状況を比較的予測しやすい。しかし、①,④は、IT部門にとって、予測不可能であることも多く、ほとんどの場合、コントロールができない領域である。研究会に参加していた多くの企業が①,④といった影響因子のために「ロードマップを描いてもゴールそのものが大きく変わってしまう」と述べていた。

「何が最適なのかは今後の技術動向によっても変わるし、企業が求めるビジネスのあり方によっても変化する。現時点から5年後の絵を描いてみても予測できないことが多い」(研究会参加企業)。また、別のある企業では毎年5年先までのロードマップを策定していたが、「では、5年前に出した計画がそのまま実現できているかと言うと、ほとんどの場合はできていない」という。「ITベンダーが様々な事情で、サポートを終了させたり、次バージョンへの移行が必要となるためだ」(研究会参加企業)。

では、どうすればよいのだろうか。これに対し、研究会に参加していた企業の多くが、ロードマップを「ゴールを実現するための計画」であると同時に、「ゴールと現実が乖離した場合にそのギャップを計測するためのツール」でもあると捉えていた。

「ロードマップのゴールは暫定的なものだ。暫定的なゴールを見定めながら、予測可能なシステムライフサイクル上のイベント等をしっかり管理し、ITの投資や維持コストを平準化していくこと、あるいは、維持コストを下げるために、事前に可能な対策を把握し、検討することを可能にするのがロードマップというツールの目的だと捉えている」(研究会参加企業)

「ロードマップは定期的に見直すからこそ役に立つ。ビジネス環境の変化により、ロードマップのゴールを大きく修整したこともあるが、重要なことはゴールが変化した後、ロードマップを見て、変化した部分が何なのかを適切に把握しておくことだ」(研究会参加企業)

研究会参加企業も言うように「ゴールを変えなければならないと気づかせるのがロードマップの役割」なのである。ここで「気づかせる」対象は、IT部門に限らない。

たとえば、ロードマップを策定し、その全体像を見せることで、なぜ「ゴールを変えなければならないか」を、経営に対してより明確に伝えることも可能だろう。ロードマップとは、「5年ほどのスパンで、ビジネスとITについて見ながら、経営者とITについて話ができるためのツールだ」(研究会参加企業)。このように主張する企業もあった。

◆クラウドによるIT基盤の課題解決の可能性
 ロードマップのゴールを変更させる要因として、④IT技術/サービスの動向の影響が大きいことを指摘したが、その中でも特「クラウド技術/サービス」に関して、研究会では常にその動向に関心を払ってきた。

「自社のITロードマップを描く上でも、クラウドについて今後どれくらいの期間で、どこまでのサービスが提供されるのかという、クラウドサービスにおけるロードマップを知る必要がある」(研究会参加企業)。

そこで研究会では、現時点でのクラウドに関する最新情報を共有するとともに、今後のクラウドの方向性について議論を行った。

議論の論点は主に2つある。(1)今後、クラウドがIT基盤における課題のうち、何を解決できるのかという論点と、(2)今後、多くの企業でクラウドの導入が進んだとき、技術標準はどうなっているのかという論点である。

まず、(1)について見てみよう。これまで研究会では、IT基盤について企業が抱えている課題について議論を重ねてきた。その中で挙げられた主なIT基盤上の課題を整理したものが【図1】である。研究会では、これらの課題を解決する上でクラウドという技術がどのように貢献できるかについて、考えてみた。

 
【図1】
 まず、開発環境などでHaaSやPaaSを使うことで、インフラの調達時間を大きく削減できるため、「ビジネスの要求するスピードにITの調達が追いつかない」という課題が解決できる期待が大きい。

さらに、資産を持たなくてもよいクラウドの活用は、IT調達と運用のコストを大きく削減する。「新たにシステムを作る際に、いちいち資産を持つ必要がないとすれば、初期投資額も大きく抑えることができる」(研究会参加企業)だけでなく、「なぜ維持・運用にこれだけコストがかかるのか。経営に説明が難しい」(研究会参加企業)と言われる運用コストからも解放される。

「技術の変化に人材育成がついていけない」という課題についてはどうだろうか。研究会に参加していたある企業は「人材が確保できない結果、サービスレベルを高めるどころか、現状のITインフラの水準を保てない危険性もある」と述べている。そこで仮にクラウドを活用すれば「社内に運用する人員がいなくても、コストさえ払えば対応できる」(研究会参加企業)。このように、インフラの調達というよりも、運用のアウトソースという視点でクラウドをとらえることもできる。

また、システムが個別最適化していることが、IT調達のスピードとコストにも影響している。そのため、各社が全社最適をめざし、ITの標準化に多大な労力を割いている。ある程度、技術、プラットフォームが絞り込まれたクラウドを活用することそのものがITの標準化につながる、という考え方も可能だ。

上述したように、IT基盤の中心的な課題の多くは、原理的には、クラウドを導入することで解決できると、研究会に参加していた企業の多くは考えていた。

ただ、クラウドがもたらす恩恵の度合いは、当然、具体的なクラウドサービスの内容や、提供方式によるところも大きく、企業のIT基盤の現状によっても、どこまでクラウド化できるのかも異なる。そのため、クラウドサービス全体を包括して、「使えるモノ」という実感値はまだ沸かないようだ。

今後クラウド事業者のサービスラインアップが、比較検討可能なほど豊富になり、各社の課題に対する解決スペックが充実してくるに従い、クラウドの利用が本格化すると思われる。

◆クラウドの技術標準は?
 様々なメリットのあるクラウドについて、今後の技術/サービス動向を考える上で、研究会に参加していた企業の多くが、最も強い関心を持っていたのが技術標準の問題である。

「確かにクラウド化によって標準化できれば、ユーザーは様々なメリットが享受できるだろう。しかし、今後、どの標準に合わせていけばユーザーはメリットを享受できるのか」(研究会参加企業)。

クラウド事業者が提供する技術標準によっては、その企業がクラウド化できるシステムの領域も異なってくる。そのため、企業が今後のIT基盤再整備のロードマップを描く上で、クラウドの今後の技術標準はロードマップ策定上も非常に重要な要因となるだろう。

たとえば、クラウド事業者が提供するクラウドの基盤に合わせてミドルウェアやアプリケーションの技術を標準化していったところ、その技術標準がその後、希少なものになっていき、システムの維持が困難になってしまうリスクもある。再度、別の技術標準に移行するとなると、そのための大きなスイッチコストがかかってしまう。

自社で独自に標準化を進める場合も同じリスクがあるわけだが、特定のクラウド事業者の提供する技術標準に依拠した結果、そのベンダー1社に囲い込まれる、という懸念を指摘していた。

今後、クラウドにおいてどのような技術が標準となるのだろうか。また、ベンダーはどのようにして提供する技術標準を決定しているのだろうか。

これについて、TIS IT基盤サービス事業部 IT基盤サービス企画部長 田淵 秀 氏は次のように述べている。

「当社では可能な限り、特定のベンダーにロックオンされない技術で開発するというポリシーのもと、今日の時点で標準的と言われるミドルウェアやOSを選定しています。選定のプロセスとしては、まずTISの450件の開発案件を棚卸しし、そこでどのようなミドルウェア、OSが使われているかを精査しました。その結果、もっとも多く使用されている技術を中心に、我々のサービスの中に取り入れるというプロセスを取っています」

このように、実際のプロジェクトの実績をもとに中心となる技術、デファクトスタンダードが定義されているのであれば、「それに乗ることができる安心感がある」との評価があった。

IT技術の動向を睨みながら、自社のITを標準化していく場合、クラウドの活用如何に関わらず、将来的に技術標準のスイッチコストが発生するリスクは生じる。ただ、基盤に関する標準化コストが必要ないことを考えると、おそらくクラウドを活用した方がスイッチコストは安くなるだろう。

以上、本研究会では5回(大阪会場での開催も含めると6回)にわたり、各社のIT基盤整備における課題、現在のクラウドサービスの分類や企業への貢献ポイントについてなど、様々な観点から、IT基盤再整備のロードマップを描く上で重要なこととは何かを議論してきました。

これら全5回の成果については、近日中に、その内容を総括し、『総括レポート』として公表する予定です。企業がロードマップを作成する上で、参考となるナレッジやモデルケースとして、ご参考にしていただければ幸いです。

(文責:株式会社ナレッジサイン 森 天都平)
 
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●これまでの「次世代IT基盤のロードマップを考える研究会」の内容を詳細なレポートにしています。以下をご覧ください。
第1回 クラウド新時代に企業はどんなベネフィットを享受できるか「”持たないIT”がもたらす企業価値を考える」
第2回 クラウド新時代を見据えた自社IT基盤の課題を考える
第3回 「いち早く取り組む企業に学ぶ次世代のIT基盤の考え方」
第4回 「~IT基盤再整備どこまで手をつけますか?~IT基盤再整備のスコープを考える」
大阪編 「いち早く取り組む企業に学ぶ次世代のIT基盤の考え方」

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