導入事例

ITSSは本当に会社のためになるのか?[09/06/17]

【ITスキル研究フォーラム主催】 ITSS推進ワークショップ
第1回「ITSSは本当に会社のためになるのか?」

日 時 2009年6月17日
参加者 企業の人材開発部門・技術部門長 6社6名
主 催 ITスキル研究フォーラム
統括事務局 株式会社日経BPマーケティング
ファシリテーター
株式会社ナレッジサイン 吉岡英幸
 この度ITスキル研究フォーラムでは、ITSSを有効にご活用いただくため、他社とITSS活用のナレッジ共有をする場として、ITSS推進ワークショップを開催いたしました。当日は、ITSSを既に導入されている企業様、現在導入検討中の企業様、過去に導入していた企業様など様々なフェーズの方にご参加いただき、ITSSを活用した体系的な人材育成に関する熱い議論が繰り広げられました。本レポートでは、当日の議論の様子をお伝えいたします。
◆ITSSに関するトップの関与と理解
 本ワークショップに参加された各企業の声を聞くと、ITエンジニアの体系的な育成にITSSを活用する目的は、これまで曖昧であったスキルの評価や育成方針に客観的な基準を与え、エンジニア自らが描いたキャリアパスに沿って積極的にスキルアップへのモチベーションを高めていく方向に教育のあり方を変えていくことにあるようです。

つまり、人材育成を大きく変革していくプロジェクトを始めようとしているわけです。

このプロジェクトを成功させるためには、ITSSに沿って研修や教育計画を企画する人材開発部門だけでなく、全社のコミットが必要です。ITSS導入に伴い、スキル強化目標を新たに目標管理の項目に加える企業が多く、現場のマネージャーにとっては、スキルの診断結果にもとづく面談の実施や、OJTの中での育成計画づくりや進捗管理が新たな仕事として増えることになります。もちろん、エンジニア自身もスキル診断に労を割くことになります。

ITSS導入のコストを考えた場合、診断ツールなどにかかるコストよりも、これらのマネジメントコストがもっとも大きなコストと言えるでしょう。

それだけに、現場のマネージャーやエンジニアにその意義を強く浸透させる必要があり、それには経営トップがトップダウンでアナウンスすることが重要になります。ITSS導入に一歩を踏み出している企業は、みな経営トップに理解を求め、経営トップに積極的な旗振り役となってもらっています。

ワークショップに参加したある企業では、中期経営計画に経営トップの声として「ITSSを活用した人材育成改革」というキーワードを実際に盛り込んでもらっていました。

このような経営トップの深い理解を実現するには、人材開発部門として、経営トップに対してITSSの意義や、ITSSを活用した人材育成の効果を粘り強く伝えていく努力が必要です。

既にITSSを導入して3年が経過した参加企業では、人事部門が経営トップに対して診断結果を分析・報告し、今後の人材育成施策についての提案を続けてきた結果、ITSSが定着していったという事例が共有されました。

◆人事評価とITSSとの結びつきについて
 ITSSを導入する際によく議論されるのが、「ITSSを人事評価と結び付けるべきかどうか」です。今回のワークショップでもこの議論が出ました。通常の人事評価は、『業績』をもとに行われます。『業績』と『スキル』は別のものですので、ITSSのスキル診断結果を人事評価に結びつけるのは適切ではないでしょう。実際に診断を行った結果、役職とスキルレベルの間にズレや逆転現象が生じているケースもあり、参加企業の中にはスキル診断結果を人事評価に明確に結び付けて考えている企業はありませんでした。

一方、エンジニアの視点に立つと、スキルレベルに関する目標管理が取り入れられるということは、スキルアップに対する新たな努力義務が発生することになります。最終的にそれが会社からの自分への評価に結びつかなければ、スキルアップのモチベーションは高まらないでしょう。

ITSS導入の目的の1つが全社としての品質を高めることにあるならば、スキルアップした結果は当然業績に反映されることになり、スキルアップの努力が結果的に業績評価として報われることがエンジニアにとっては望ましいことでしょう。

ワークショップ参加者の多くも、異なる2つの軸で人事評価するというマネジメントは避けなければいけないが、ITSSのスキル診断の結果と業績が結果的に連動していくことが、望ましいと考えており、将来的には両者を連動させた評価制度を構築していくことをめざしていました。

◆エンジニア自身が自らのキャリアパスを描ける仕組みづくり
 ITSS導入のメリットの1つとして、エンジニア自身が自らのキャリアパスを描ける、ということが挙げられます。そこでは、エンジニア自身が描いたそのキャリアパスを実現するために、会社としてどのように支援していくのかが重要になります。

スキルアップしたそのスキルを生かす業務が用意されていなければ、キャリアアップにはつながりません。ITSSを導入した結果、自分のキャリアッップに目覚め、積極的にスキルアップした結果、自分を生かす仕事がないので、辞めてしまう。スキルアップしたエンジニアに対する仕事の受け皿が自社にはなく、ITSS導入が人材の流出につながることを懸念する率直な声がワークショップでも聞かれました。

ただ、エンジニアがキャリアップに目覚めることはITSSの導入に関わりなく、エンジニア自身の問題意識の高さによって起こり得ることです。むしろ、ITSS導入によって全社の品質が高まり、エンジニアの成長に伴って業務も高度化していくことを期待する方が現実的かもしれません。

◆選抜育成か中間層の底上げか?
 実際にエンジニアを育成していくのは、現場のマネージャーの役目です。トップダウンによってマネージャーを人材育成にコミットさせることは効果的ですが、プロジェクトのマネジメントに追われる現場のマネージャーに、教育への工数を割かせるためには、現場のマネージャー自身が人材育成へのモチベーションを高められるようにすることも重要です。

このような中、現場のマネージャーがエンジニアを育成する納得感を持ちやすいものとして挙がったのが、『選抜育成』という考え方です。『選抜育成』とは、育成すべき対象を絞り、彼らに体系だった適切な研修やOJTを実施することで、将来有望なエンジニアに対する育成に注力するというものです。

ITSSのスキル診断によって選抜育成する対象、つまり教育効果が出やすい対象も明確に絞りやすくなります。選抜育成を受けて育ったエンジニアの業績が上がると、部門としての業績も上がるので、現場のマネージャーとしては教育に対する『見返り』が明確になります。参加企業の多くが、この選抜育成という考え方に対して前向きに捉えていました。

しかし一方で、全社的な視点に立つと、中間層の底上げも必要不可欠です。中間層の底上げは選抜育成に比べコストもかかり、教育効果も不明確ですが、企業全体の品質向上には欠かせません。

中間層の底上げが難しいのは、平均的なエンジニア間ではスキルレベルの差が明確ではないため、強化すべきポイントが曖昧になってしまう点にあります。ただ、ITSSの診断ツールを使うことで、中間的なレベルを細分化した指標をつくることができ、一人一人の強化すべきポイントを明確にすることができます。

ITSSの活用によってスキルを「見える化」するということは、現状を「見える化」するだけでなく、将来のあるべきスキルのゴールも「見える化」することにつながるのです。

(文責:株式会社ナレッジサイン 松本麻友香)

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