人事/労務部門のプレゼンスを高めるためには[11/07/22]

日立ソリューションズ(旧 日立システムアンドサービス)「ヒューマンキャピタル研究会」 主催
人事/労務リーダーの皆様による、情報交換会2011
第1回 人事/労務部門のプレゼンスを高めるためには
~人事/労務は”表舞台”に出るべきか、”縁の下の力持ち”になるべきか~

日 時 2011年7月22日
参加者 人事/労務管理部門のリーダー、マネージャーの方 4名
主 催 株式会社日立ソリューションズ
ファシリテーター
株式会社ナレッジサイン 吉岡英幸
2008年7月より開催している日立ソリューションズ主催の「ヒューマンキャピタル研究会」2011年度は、企業にイノベーションをもたらす ”攻め”の人事/労務を目指し、全5回に渡り、勉強会を開催いたします。
7月22日に開催した研究会では、「人事/労務部門のプレゼンスを高めるためには」をテーマのもと、議論しました。その模様を本レポートにてお伝えいたします。
◆経営者へのプレゼンスと従業員へのプレゼンスは異なる
 人事/労務の社内プレゼンスは、経営者に対するプレゼンスと、従業員に対するプレゼンスとでは、どうあるべきかが異なる。
 
【図1】人事/労務部門に対する、経営からの期待や評価について
 参加者へのアンケートで、人事/労務部門に対する経営からの期待や評価についてどのように感じるかを聞いたところ、「経営からの期待や評価は高いと感じるが、現状経営に期待されている以上にもっと戦略的な役割が果たせると思う」との回答がもっとも多かった。つまり、経営のビジョンを実現するために、人事/労務に対しての経営からの期待のハードルを、もっと上げたいと感じているということである。
◆経営戦略の人事マター化と経営戦略に資する人事戦略とは異なる
 経営へのプレゼンス向上のために人事/労務部門が行えるアクションについて、以下3点が考えられる。1. 現在行っている施策の質とスピードの向上
2. 抽象的な経営ビジョンを先回りして人事マターにブレイクダウンする
3. 人事/労務の得意領域ではない新しい領域へと踏み込むこと経営者が経営の方向性を大きく転換する際、組織の大幅な変革や人材の拡大・削減など、直接人事マターに関わることがある。また、経営戦略上、人事制度変更などに経営が直接の指示を出すこともある。これら「人事マター」については、人事/労務は、経営の要望にもとづいて、何をすべきかが明確だ。迅速かつ丁寧に粛々と制度設計や運用を実行していくことだ。

しかし、「グローバル化」、「経営基盤の強化」など抽象的な経営ビジョンを打ち出す場合、必ずしもビジョンに紐づけされた人事マターが明確になっているとは限らない。

それでも、人事/労務に対しては定性的な要望が降りてくる。これらは、まだ「人事マター」としてブレイクダウンされていないため、人事/労務としてもどのようなアクションをすべきかが明確ではない。逆に言えば、経営から人事/労務への要求が曖昧であるため、目標の達成を深く追求されることもなく、人事/労務としても言い逃れも可能だ。

しかし、研究会参加者の多くは、人事/労務自ら経営の定性的な要望を人事施策にブレイクダウンしていくべきだと考えていた。ある意味余分な荷物を背負いこむことになるが、それこそ”攻め”の人事/労務リーダーの姿である。

◆経営自ら、人事/労務に新しい領域へチャレンジを要求する事例も
 一方、経営者が直接人事/労務に対して、新しい領域へのチャレンジをミッションとして示す例もある。研究会に参加するある企業では、M&A先のデューデリジェンスの作業を人事/労務に命じている。M&Aに際し、買収企業先の人財の質や人事制度など、人事面での企業価値を評価するわけだ。人事面での評価とは言っても、M&Aにおける企業価値算定の材料を吟味することであり、人事/労務の専門的な範疇ではない。ましてや海外とのM&Aにおいて、外国人従業員への心情を考慮したコミュニケーション計画を策定し、キーパーソンとリレーションを築くことは、国内での人事マターとは比べ物にならないほど困難であるといえるだろう。しかし、この企業の経営者は、敢えて人事/労務にそのミッションを担わせている。それだけ、人事/労務に対する期待が高いとも言える。経営へのプレゼンスを高め、”攻め”の人事/労務リーダーとなるために、このように「人事/労務の得意領域ではない新しい領域へと踏み込むこと」が果たして必要なのか。

研究会参加者のほとんどが、そうあるべきだと考えていた。しかし、個人的な思いとして、そのような方向性を志向するかどうかは別だ。

賃金制度や福利厚生制度、労働組合との交渉など、人材基盤の強化策を考える従来の人事マターからはかなり変容しているが、今後人事/労務が生き残っていくためには、これまで取り組んでこなかった領域に踏み込んでいくべきだろうとは思う。しかし、経営より求められるレベルの業務に対応できるような教育を受けているケースがまだ少ないことや、現場のマネージャが行った方がスムーズに進むと考えられることも多い。これらを考慮すると、実際にはハードルが高いと感じるようだ。

人事/労務が、これまで取り組んでこなかった新しい領域に目を向けることも必要だが、一方で、これまでに従事してきた人事マターの領域の中に、専門性は高いが暗黙知になっている領域が少なからずある。この暗黙知の領域を形式知化して、人事/労務としての専門性の幅を広め、今後戦略的に育成していくことも重要ではないだろうか。

◆対従業員へのプレゼンス
 
 それでは、従業員に対するプレゼンスをどう高めるべきなのか。参加者へのアンケートで「人事/労務部門に対する、従業員からの期待や評価について、どのように感じているか」を尋ねたところ、一番多かった回答は「イノベーションをもたらすとまでは言えないが、重要な部門であり、業務品質が企業価値そのものを大きく左右すると認識されている」であった。だが、興味深いのは、「あまり感謝されている実感がない」という回答は少ないものの、「人事/労務部門は、従業員にとって役立つ存在であり、常に感謝されている」という回答はゼロであったことだ。

裏返すと、「あまり感謝されている実感はない」とも見てとれる。

実際に、参加者の声を聞くと、企業価値を高めるために、業務部門と様々な調整が必要であり、現場との関係を良好に保とうと人事/労務から積極的にコンタクトを取ることを求めているが、現場からは、なんとなく煙たがられているようだ。

なにかを制約されたり、人事施策への協力を求められたりするため、従業員にとっては、面倒事を押しつける存在とみなされている。

従業員にとって嬉しくない人事制度への変更などがあると、本来は経営者に向けられるべき不満が、制度運用の先頭に立つ人事/労務に向けられる。少しふびんではあるが、人事/労務としての宿命でもある。

現場との良好なコミュニケーションのためには、個人的な信頼関係の構築が重要であると研究会参加者は考えていた。社内の飲み会の誘いは断らない。地方の工場の管理職と仲良くなるために、一緒にゴルフをする。泥臭いやり方ではあるが、個人的な信頼関係がいざというときに役に立つ。

また、人事/労務からの情報発信も重要だ。研究会に参加していたある企業の例だが、大きな人事制度変更についての検討プロセスに現場を巻き込むようにしていた。新制度案を密室で検討して、ある日突然発表するのではなく、検討の段階から、その内容を現場のマネージャ層に少しずつ開示し、現場の意見が届くようにする。ある意味リーク的な情報発信になるため、注意を要するやり方だが、制度変更を実施する段階での理解が得られやすい。

人事施策に対する従業員満足を高めることは重要だが、従業員満足を優先し過ぎても非効率的になる恐れがある。ある企業では、制度変更の度に、階層別に時間をかけてじっくりと社内に説明していく。時間をかけることで納得感も得られやすいが、現場からの余分な要望が沸き上がり、新制度の本来の価値が損なわれたり、時間をかけることで非効率が生じ、かえって従業員に負担を強いることになったりするのだ。

従業員へのプレゼンスという点では、人事施策実行の過程での従業員満足も重要だが、人事施策の結果に対する従業員満足を重視すべきであろう。

(文責:株式会社ナレッジサイン 藤原由佳)
※株式会社日立システムアンドサービスは、2010年10月1日付けの合併により、株式会社日立ソリューションズとして新たにスタートしました。

●これまでのヒューマンキャピタル研究会の内容を詳細なレポートにしています。以下をご覧ください。

◆総括レポート PART1 「適正な労働時間管理を実施するために」(2008年12月1日発表)
◆総括レポート PART2 「メンタルヘルス対策への効果的な取り組みとは」(2009年3月10日発表)
◆2008年度総括レポート 「企業価値向上に向けた人事/労務リーダーの取り組み」(2009年6月1日発表)
◆2009年度総括レポート 「2010年の人事/労務における重点課題はどう変わるか」(2010年5月26日発表)
◆緊急調査レポート「東日本大震災 そのとき人事/労務はどう動いたか、そして今後人事/労務が対応すべきこととは」
(2011年6月22日発表)

◆2010年度総括レポート「人財価値(パフォーマンス)を最大化し、企業イノベーションの旗手となる”攻め”の人事/労務のミッションとは」(2011年7月14日発表)

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