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フローレンス様にお聞きする、フローレンスの考えるセルフマネジメントとビュートゾルフ視察 ~Management3.0 Inspiring Key Personインタビュー~

「親子の笑顔をさまたげる社会問題を解決する」をミッションに掲げ、病児保育や障害児保育、養子縁組などの事業を手がける認定NPO法人フローレンス様(以下、敬称略)は、2004年に訪問型病児保育の事業で創業し、現在は8つの事業領域で保育・福祉関連のサービスを提供しています。現在の利用会員数は7,000名を超え、また、創業以来、事業理念に共鳴する仲間をスタッフとして迎え入れながら、現在では、600名近いスタッフを抱える組織になっています。

ナレッジサインも、説明力・プレゼンテーション研修や、会議ファシリテーション研修、Management 3.0のワークショップなどを通じて、フローレンスの成長を支援させていただいています。

そんな中でも、常に自由で自律する組織風土を大事にしてきたフローレンスは、昨今話題になっているティール組織の考え方に共感し、ティール組織型の企業や団体の事例を研究しながら、フローレンスらしいセルフマネジメントの姿を模索しています。

そして、先ごろ書籍「ティール組織」で紹介された、オランダの非営利在宅ケア組織ビュートゾルフ(Buurtzorg)を視察訪問されました。その時のお話や、フローレンス自身の組織運営について、副代表理事・ディレクターの宮崎真理子さんと、マネジャーの杉山富美子さんにお話をお聞きしました。

フローレンスでは、人材採用でビジョン力を重視しています

― まず、フローレンスの手がける事業について、簡単にご紹介ください。

宮崎:フローレンスは、2004年に訪問型の病児保育で事業をスタートしました。現在の利用会員数は7,000名を超え、病児保育の現場スタッフも100名ほどになります。また、施設型保育も手掛けており、小規模認可保育所(定員19名までの保育所)が15カ所、認可保育所が2カ所、こちらの現場スタッフは150名ほどになります。

その他には、障害児保育や、マンションの共有スペースを、地域のファミリーが交流して、みんなで子育てできるようなコミュニテイ施設として運用する受託事業などもしています。また、自治体や他のNPOと連携しながら、支援が必要なご家庭に定期的に食事を届けるサービスなども手掛けています。現在では、8つの事業領域でサービスを提供しています。

― フローレンスの組織運営、組織風土で特徴的なこととは、どのようなことでしょうか。

宮崎:多様性に富む組織ということを、とても重視していますね。年齢、性別、キャリア、バックグラウンドも皆多様です。

― 人材を採用される時に、どういうことを意識しておられますか。

宮崎:面接の際の指標がいくつかあるのですが、重視しているのが、ビジョン力というものです。これは、フローレンスのビジョンにきちんとコミットできるかどうかを見ています。

― どうやってコミットできるかどうかを確認するのですか。

宮崎:フローレンスには「みんなで子どもたちを抱きしめ、子育てとともに何でも挑戦でき、いろんな家族の笑顔があふれる社会」というビジョンがありますが、このビジョンに共感しているか、なぜ共感するのか、自分の経験とビジョンをリンクして語ることができるかを、対話を通して確認していきます。

杉山:そのうえで、それを仕事としてやり切れるかどうかが大事だと思っています。仕事を通してビジョンを実現していくためには、マインドだけではなく、きちんと課題解決する力が問われます。どのように課題解決していくのか、自分の経験をふまえてイメージできるかを、対話の中で見ていこうとしています。

― でも、面接でそのような力を見抜くのは、とても難しいことだと思います。

杉山:本当に難しいと思います。ティール組織の中で出てくるホールネスの概念を、私は自分のありたい姿と組織のありたい姿が重なることだと理解しているのですが、組織やビジョンに共鳴するあまり、自己犠牲を良しとするのではなく、自分自身がきちんとあり、フローレンスのビジョンに共感しながらも、現実的にどう折り合いをつけるのか、冷静に考えられる力が必要だと思っています。

-ビュートゾルフ視察- 
①組織文化の維持・浸透のためのさまざまな仕掛けがある

― そんなフローレンスですが、今回、『ティール組織』で紹介されて話題になった、オランダのビュートゾルフ社を視察されました。なぜ、ビュートゾルフに訪問されたのですか。

宮崎:「ティール組織」の本では、さまざまな企業・団体が紹介されていましたが、ビュートゾルフは、訪問看護の現場が主体の団体で、保育の現場が主体の弊会と親和性が高いので、どのように本部と現場の組織運営をしているのか、興味がありました。

― フローレンスにとって、ビュートゾルフを参考にしたいと思ったきっかけは何でしょうか。

宮崎:私たち自身は、現場と本部の役割分担に課題を感じていました。保育事業者ですから、たくさんの保育の現場があります。今までは、本部が運営方針を決め、人材を採用し、現場はそれに従う形でしたが、これからもその運営の仕方でいいのだろうかという疑問が出てきました。

2004年の創業以来、組織も大きくなってきて、今は現場が約500名、本部が約100名で、合計600名ほどの人材規模です。小規模の時は自由な運営で良かったのですが、規模が大きくなるとやはり仕組みやルールを整備する必要があり、そうすると、「管理されることが多い」と感じる部分も出てきます。2年ぐらい前に従業員アンケートを取ったところ、「大企業化しているんじゃないか」と言った声もありました。

そんな中で、自由と規律を両立させていくためには、どうすればいいのかという課題意識が芽生え、9,000名の規模でありながら、自律的な組織運営をしているビュートゾルフが、どのように実際に運営しているのかを知りたくなりました。

― 具体的には、どのような部分を参考にしたいと思われたのですか。

宮崎:私たちは、ティール組織のような考え方に共感しており、ティール組織における、セルフマネジメント、ホールネス、存在目的という3つの重要なキーワードの中で、ホールネス、存在目的は、ある程度できていると感じるのですが、セルフマネジメントは、私たちのまだ弱い部分であると思っています。ビュートゾルフは、大規模でありながらセルフマネジメントがしっかりできているらしいということで、そこを一番参考にしたいと思いました。実際に現場に行ってみて、本当にセルフマネジメントができていることを知りました。

― ビュートゾルフには、どのようなことを聞かれたのですか。

宮崎:私たちが問いかけた質問は、「組織文化の維持・浸透をどうしているのか」、「評価・処遇をどうしているのか」、「旧意思決定者は今何をしているのか」の3つです。

まず、組織文化の維持・浸透ですが、「ビュートゾルフのフィロソフィーは何ですか?」とお聞きしたのですが、意外にも「そんなものはあるかな」という返答でした。しかし、いろいろお聞きしていくと、セルフマネジメントそのものがビュートゾルフのフィロソフィーであるということが、わかってきました。

― そのようなフィロソフィー、組織文化を維持するために、どのようなことに取り組んでいるのですか。

宮崎:何か特別なことはやっていない、というお話でした(笑)。ただ、いろいろとお聞きしていくと、いろんな仕掛けがあることがわかりました。

たとえば、1つのチームの人数を12名と決めており、その中での役割も明確に定めています。チーム内での階層はありませんが、プランニング、アドミニストレータ(管理・記録)、メンター(若手指導・実習担当)、アセスメント担当(ケアマネ業務)など、役割分担は明確にしています。各役割担当は、責任を持って担当するという意味で、必ずしもその役割についてすべてを決定するわけではなく、チームで決定することを重視しています。

-ビュートゾルフ視察- 
②ICT化とe-Learningでチーム間の協働や採用・教育業務を支援

― 業務の運営面ではどのような仕掛けがありますか。

宮崎:徹底したICT化を実践しています。ビュートゾルフWebというアプリを自社開発しており、このアプリでは、オランダ国内の地図上に、ビュートゾルフのすべてのスタッフがプロットされています。どこの地域に、どんな専門性を持った看護師がいるのかが一目でわかるデータベースで、現場で何か困ったことがあった場合、チームを横断して、誰かのサポートを受けることができます。

― チームごとに自律的な運営をしながら、ビュートゾルフ全体で協力し合える体制なのですね。本部としてのサポートはあるのでしょうか。

宮崎:採用・育成・総務業務の手順をすべてe-leaningで学ぶことができ、本部を通さず、現場で完結することができます。採用の際の面接の仕方なども、また、チーム内で対立した時にどうするか、ファシリテーションの手法もすべてe-leaningのマニュアルで学ぶことができるのです。これらのコンテンツは本部が作っています。

その他、本部が日常やっている業務は、訪問看護に対する保険料の受け入れや、給与の支払いなどのバックヤード業務です。

― ビュートゾルフ全体の業績管理や、経営マネジメントについてはいかがですか。

宮崎:経営に必要な指標を明確にしており、各チームの経営指標がダッシュボードで公開されています。指標は、顧客満足度、生産性、請求時間と人員数の比較、有給休暇の取得率、インシデントの内容などです。これらが一覧になっており、ビュートゾルフ全体の平均と、自分のチームの比較ができるようになっています。

3か月間続けて平均を下回った場合、本部から現場に会いに行きます。ただ、その時も叱咤したり、指導したりするわけではなく、「どうする?」と聞くだけです。

また、全スタッフが利用できるチャットがあり、いつでも、いろんな情報交換ができます。

-ビュートゾルフ視察- 
③評価のためのコストをかけず、本部は仕組みのメンテナンスに専念

― 評価・処遇についてはどうですか。ビュートゾルフには、管理職という存在がないと聞いています。

宮崎:管理職がいなくて、評価・処遇をどうやって決めているのかをお聞きしたのですが、看護師の給与は国内一律である、というのが回答でした。オランダでは、看護師は、技能レベル、資格、経験年数によってグレードが規定されており、それによって報酬も決まっています。ですから、団体ごとに任意の報酬額を設定する必要がありません。評価・処遇に関するコストは一切ないのです。

― それは、頑張っても頑張らなくても一緒ということですか。

宮崎:看護師に関しては、グレードが同じであれば、給与は一緒です。この辺は、日本とは少し状況が違いますので、日本でも同じようには考えられないと思います。

― そのように自律した組織で、旧意思決定者、つまり創業経営者は今何をやっているのですか。

宮崎:一つは、セルフマネジメントの仕組みのメンテナンスです。たとえば、全社員が書き込めるチャットに、かつて、組織全体に悪影響を及ぼしそうな炎上的な書き込みがあったらしいのですが、それを消すか否かを経営層で議論をして、最終的には消さないという判断をしました。それは、消してしまうことで、誰かが良い悪いを判断しているというメッセージを出すことになり、セルフマネジメントにならないからだということでした。これも、セルフマネジメントのメンテナンスの一つです。

あとは、ケア業界に優秀な人材を集めるための広報活動や、保険会社との交渉や政策提言などです。

― 全体として、ビュートゾルフの特徴的なポイントとは、どのようなことだと、とらえていますか。

宮崎:まず、シンプルな事業モデルであること。訪問看護を立ち上げて、60%稼働すれば、経営的に成り立つ事業モデルです。60%稼働というのは、比較的簡単なことで、それをクリアすれば、後は自由にできるところが、スタッフにとって魅力だと思います。
また、セルフマネジメントとは言いながらも、最低限の枠組み、ガイドラインを用意していること。
そして、そのようなさまざまな仕組みを常にメンテナンスしていることだと思います。

何かをやりたいと思った人がいたら、積極的に社内で発信し、勉強会やプロジェクトを同志で立ち上げることが多いのは、フローレンスの特徴だと思います。

― ここで、再びフローレンス自身のことをお聞きしていきたいと思いますが、ビュートゾルフから学んだことで、フローレンスに取り入れていきたいことは何かありますか。

宮崎:1つは、重要な経営指標を、ICT化によって全員がアクセスできるように開示していくことです。もう1つは、現場スタッフ向けに、意思決定力を鍛える研修をしていきたいと思っています。

― フローレンスにおいて、ホールネスという部分は、ある程度できているというお話がありましたが、ホールネスという概念を体現しているなと感じるのは、どういうところですか。

杉山:仕事の時間内で、自分個人のことを出すことが多いと思います。たとえば、仕事中に、子育てに関する自分の体験を話したり、プライベートな出来事を話したりすることが許容されていることが大きいと思います。
たとえば子連れ出社が可能で、自分のお子さんを連れてきて、自分のデスクの横で過ごさせたり、小学校6年生のお子さんが会社で受験勉強していたりなどの光景が普通です。

また、部活というものが会社にあり、部活に関する対話が社内SNSで行われたり、業務日報の中でも、プライベートな話がシェアされたりします。

そのように、業務だけでなく、スタッフ個人のことが社内で会話されたり、「いいね」などで共感されたりということがごく自然な形で行われたりしています。

― セルフマネジメントという視点で、何か取り組んでいることはありますか。

杉山:「フローレンスの虎」という、企画コンペをしています。テーマは何でもいいので、フローレンスとして、こんなことに取り組むといいのではないか、ということを、経営会議にプレゼンします。認められたものは、予算がつけられ、社内を横断したプロジェクトとして、アクションしていきます。

そのような提案制度的なものは、人事部門の中でもやっていますが、提案制度に限らず、「こんなことがしたい」と考える人間がいれば、同志を集めて活動し、会社もそれをオーソライズするという風土があります。
そんな中で、保育に関する知識を共有する保育塾という社内向け勉強会を、「オープン保育塾」という、社外向けのイベントとして実現し、好評を得たケースもあります。

何かをやりたいと思った人がいたら、積極的に社内で発信し、勉強会やプロジェクトを同志で立ち上げることが多いのは、フローレンスの特徴だと思います。

― フローレンス自身の処遇・評価制度はどうなっているのですか。

宮崎:半期に一度、社員が自分自身の行動を振り返り評点をつけ、上司とすり合わせし、合計点をつけ、それが昇給・賞与に反映されます。

― 360度評価などは取り入れていますか・

宮崎:昇給とは関係なく、育成のために取り入れている部分があります。

― 評価制度における課題は何かありますか。

宮崎:評価にはコストがかかります。マネジャーにも、社員本人にも手間がかかります。また、昇給のために点数をつけるのと、育成のために点数をつけるのとでは、結果も変わってきます。より、育成に資する評価制度にしていきたいと思っています。

― フローレンスの考えるセルフマネジメントとは、どのような状態でしょうか。

宮崎:自主・自律的な状態ですね。今は本部が意思決定して、それを現場に浸透させるという役割分担ですが、現場の保育園の園長先生が、ある程度決定していく形に移行していきたいと思っています。

― そうすることによるメリットとは何でしょうか。

宮崎:やはり、現場が解決に対する知恵をもっとも持っていると思いますので、より適切な策をスピーディーに打てると思います。今後3~5年かけて、そういう形に持っていきたいと思います。

― どのようなステップでそういう体制にしていこうと考えていますか。

宮崎:まずは、ビュートゾルフの事例などを社内で共有化し、セルフマネジメントの考え方の理解を促進し、そして、マネジャーを中心にして、自部門でセルフマネジメントを推進していくためにはどうすればいいのかを議論し、セルフマネジメントの私たちなりのゴールを設定して、3ヵ年計画を立てていく予定です。

自分たちが多様であるということを受け止めたうえで、どういうチームであるべきかを考えたい

― セルフマネジメント以外で、フローレンスの組織運営として、今後チャレンジしていきたいことはありますか。

宮崎:ビジョン型の経営が今の強みだと思っているのですが、組織も大きくなってきていますので、ビジョンの維持・浸透に力を入れたいと思っています。
今、マネジャーと経営層で合宿を行い、私たちが大事にしていることは何か、ということを改めてキーワードにしようとしています。また、社内で、私たちのチームがどうありたいのか、という対話の場を開いたりしています。

― たとえば、杉山さんは、どういうチームでありたいと思っていますか。

杉山:やはり、自分たちが多様であるということを受け止めたうえで、どういうチームであるべきかを考えたいと、メンバーとはよく会話しています。

― 何か最後に付け加えることはありますか。

杉山:セルフマネジメントを実現することは、簡単なことだとは思っていません。自分たちが自律的に物事を決めていけることが、最終的には、より、やりがいのある組織になり、人も集まり、活性化されるだろうと、私個人的には信じています。ただ、一人一人考え方はあると思いますので、私はこう信じているけれども、あなたはどうですか?と対話をしながら、みんなで一緒に考えていきたいと思っています。

宮崎:フローレンスで働く人には、ここで働くことを誇りに思えるようになって欲しいと思っています。そのためには、みんながどうしたいかを大切にしながら、一緒に考え、対話し、これからのフローレンスをつくっていきたいと思っています。

― 今日は、どうもありがとうございました。

 

インタビュアー:株式会社ナレッジサイン 代表取締役 Management 3.0 Licensed Facilitator 吉岡英幸

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