IT部門終活のススメ 第2回 ポストIT部門に必要な経営思考を身につける

イノベーションのためのIT部門終活事始め

 

前回のコラムで、なぜIT部門に終活が必要なのか、そして、IT部門の終活とは企業にイノベーションをもたらすことだと説いた。終活は、店じまい的なネガティブな取り組みではなく、企業に競争力を蘇らせる創造的破壊なのだ。

私は、この12年間、さまざまな場所でIT部門リーダーと議論する機会を得たが、お世辞抜きにIT部門ほど、会社のことを横串でまじめに考えている部門はないと感じる。それほどまじめに会社のことを憂慮し、日夜改善に知恵を絞り、そして、IT部門が考える改善案はたいてい的を射ている。
如何せん、説明力や説得力に欠けるため、その正当性を認めさせるのが苦手で、いかにも華々しいイノベーションの方が注目されるため、IT部門の地道な改善の努力は影が薄く映ってしまい、挙句の果てには、抵抗勢力扱いされてしまう。

最近は、IT部門の破壊と再生が必要だと考えるIT部門長も増え、一緒に改革プランを作ることが多くなってきたが、自らリスクをとって変革に乗り出そうと考える組織のトップなど、そんなにいるものではない。それほどIT部門トップはまじめなのだ。
木村さんの極言暴論に共感するIT部門長も多いと聞く。私は大いに明るい未来を感じる。
それでは、どのように終活を進めていけばいいのか。ナレッジサインはナレッジ、ノウハウを提供する会社なので、ここからは具体的な方法論を語っていきたい。

終活のロードマップを描く際には、まずはゴールとなる未来の姿を描かなければならない。そして、そこに寄り添うITの姿を考える。基本的なステップは次の5つだ。

・未来の経営の姿を考える
・未来の経営に寄り添うITの姿を考える
・そこに必要な人材のコンピテンシーを定義する
・人材やその他のリソースを企業内外のどこに配分するか考える
・必要なコンピテンシーを備えた人材の調達/育成方法を考える

カジノで絶対勝つ方法は? ビッグデータ? 勘?

 

未来の経営の姿を考えるというのがIT部門の皆さんは苦手だ。IT部門の方にビジネスの未来予測をしてもらうと、なんだか今の延長線上のものばかりで、大胆な発想のものが出て来ない。あるいは、IT技術の予測になってしまう。
たしかに未来は今以上にITが経営に密接に関係してくるはずだから、経営の未来とITの未来は一体化してくると思われるのだが、いくらITの技術・サービスの進化があったとしても、それがビジネスの価値として説明できなければ意味はない。

IT系の人は、ITの中身がどうなっているか、ITの処理プロセスがどうなっているか、プロセス志向で考える傾向がある。しかし、経営は常に目的志向だ。ここに決定的な思考スタイルの違いがある。

たとえば、「カジノで絶対に勝つ方法を考えろ」と経営者から宿題を出されたらどう考えるか?

これをIT思考で考えると、「過去のデータを集積してビッグデータで分析して・・・」という風になるのではないだろうか。しかし、経営思考で考えるとアプローチはまったく違う。ゴルゴ13に登場するアラブの大富豪はこう言い切っていた。

「カジノで絶対に勝つ方法を知ってるか?カジノごと買っちまえばいいのさ。」
これが経営思考だ。

このような思考スタイルでビジネスの可能性を考え、想像力を膨らませないと、IT部門の終活はただの店じまいになってしまう。

 

過去15年の変化から今後10年のビジネスとITの変化を予測する

 

そうは言っても未来予測など難しい。誰も正確に未来を予測できない。未来についての想像力を養うもっとも良い方法は、過去に何がどう変化したかをふり返ることだ。私も新規事業開発のワークショップなどでよくやっているが、何かテーマを決めて過去10年ぐらいに遡ってどのような変化があったかをふり返ってみるのだ。
世の中の変化はどんどんと加速度的になっているので、今後10年の変化は、過去の15年分ぐらいに匹敵するだろう。
ちなみに今から15年前の2000年ごろ、ITとビジネスの関係はどうなっていただろうか。

2000年.当時の私はリクルートという会社にいた。当時から情報サービス会社と言われていたが、社員全員に1台ずつPCが支給されたのはその2年ほど前。2000年の時点では、会社のPCはインターネットに接続していなかった。私はデスクの電話回線に勝手にモデムをつないでインタ-ネットを見ていた。
自宅でインターネットにつなぐ場合のプロバイダの回線料は当時はまだ従量制だった。NTTのテレホーダイで夜11時以降定額になるので、インターネットを見るのはもっぱら夜中だった。ADSLが登場し、常時接続が当たり前になったのは2003年だ。

2000年当時からオンラインショッピングはあったが、当時はインターネットでクレジットカード番号を入力するなんて考えられない、という人が多く、代引きが主な決済手段だった。当時オンラインショッピングのビジネスに従事していた人でさえ、オンラインショッピングは普及しないのではないかと予想する向きが多かった。

飛行機の予約は既にオンラインでできるようになっていたが、手続きがかなり煩雑であった。当時はWebなどのフロントエンドと基幹のシステムが連携していなかったので、空席の金額を確認するためには、別の料金表のページを開かなければならなかった。

今でこそ、業務アプリケーションを導入する際、エンドユーザとは導入部署の全社員を指すことがほとんどになったが、2000年以前は、企業システムのエンドユーザというのは、ごく一部の「コンピュータをさわっている」社員のことだった。基幹業務システムのユーザーインターフェースをWebで作るのは、まだまだおもちゃ扱いだった。
レガシーマイグレーションという言葉でメインフレームからオープン系への移行が俄かに市場を賑わせるかに見えたが、今ひとつオープン系の技術にこなれていない若手技術者と、もうしばらく現役でいてくれそうな古参技術者とを天秤にかけて、なかなか踏み切れない企業が多かった。今思えば、あのときはまだ生き字引のベテラン技術者が多かったのだが。

CPUの処理能力も、回線速度も、ストレージの容量も今とは比較にならない。仮想化もクラウドもワイヤレス接続もタブレット端末もない。SNSもなければYouTubeもない。個人情報保護法も内部統制もないおおらかな時代だった。
ちなみに当時システム構成図を描く際、サーバのイラストは圧倒的にタワー型だったが、今はラック型が主流だ。

ビジネスを変化させるのはIT技術ではなく社会の変化

 

すべてにおいて今とは隔世の感がある。こうやって見てみると、たしかにIT技術が進化しているが、ビジネスに影響をもたらしているのはIT技術の変化ではなく、社会の変化の方である。

オンラインショッピングが今では当たり前なのもインターネットセキュリティが進化したことが理由ではない。多くのサプライヤーが登場し、消費者が「リスクはあってもこっちの方がラクだよね」と感じ始めたからだ。
タブレット端末にしても、当時から国内ベンダーでは似たようなものを開発していた。しかし、それを使った体験やビジネスのしくみが提示されて初めて普及した。

過去15年、ビジネスのしくみや仕事スタイル、ライフスタイルがどう変わり、人間がITとの関わり方をどう変えていったのかをじっくりふり返ってみると未来へのヒントが見えてくるはずだ。
ビジネスの未来について考えることは、別に正確な未来を予測することが目的ではない。ITをもっと利活用できる未来を作るために、思考の仕方を変えるトレーニングなのだ。そういうことに挑戦していくことで、ポストIT部門を担う人材のコンピテンシーも見えてくるのだ。

(文責 ナレッジサイン 吉岡英幸)

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