これからのオンラインファシリテーション「ファシリテーターは全員顔出しNGワークショップに備えよ」

This post is also available in:
English (英語)
ナレッジサインでは、2020年3月以降、新型コロナウィルスの影響を受けて、オフラインで実施していたワークショップをオンライン化するなどの取り組みをしています。
これまでの経験をふまえ、ファシリテーターやワークショップ運営者が、オンラインでのワークショップや研修などをデザイン・運営する際のポイントについてまとめてみました。
なお、ワークショップなどのオンライン化は今まさに過渡期であり、我々プロのファシリテーターも日々試行錯誤しながらやっております。この2カ月間だけでも、いろんな場所でいろんな試みがなされ、どれが最善なのか、考え方も多様で、ワークショップにおける当たり前も日々更新されている状況です。
ですから、2020年5月時点での、私の私見を軸としてものとしてお読みいただければと思います。
オンラインでは、学習のための時間の使い方の概念が変化する
これまでオフラインでやっていたワークショップをオンライン化していくにあたり、ZOOMだけでなく、さまざまなビデオ会議、オンラインコミュニケーションツールの恩恵で、オンラインのワークショップでも、オフラインの要素を限りなく再現したものをできるようになりました。
一方で、オフラインの再現にこだわるあまり、オンラインではミスマッチな部分、逆にうまくいかない部分も散見され、改めてオンラインに適用すべきでないオフラインの当たり前が見えてきました。
私の私見ですが、それをいくつか項目として挙げます。
・オフラインの時間割をそのままオンラインに当てはめない
・一方的な講義はできるだけ事前の動画配信にする
・常にビデオオンを要請しない
・内職OKを受け入れる
・ドレスコードという概念を持たない
・バーチャル背景、アバター、スナプップカメラなんでもOKにする
・そもそも参加者がエンゲージされているかを気にしない
ます時間の概念ですが、急きょ既存コンテンツのオンライン化に取り組みだした3月初旬ごろは、オフラインでやっていた時間割をそのままオンライン化したものが多くありました。1日がかりのオンラインワークショップもたくさんありました。
しかし、オンラインでは、集中力を要求され、疲れてきますので、長時間のワークショップは、明らかに参加者の満足感が低くなります。
私の周囲でも、オンラインのワークショップは、3時間が限界という声が多いです。
そうした場合、1日コースのワークショップを2時間×3回などと分割するのか、1日を3時間ぐらいに短縮するのかを、考えないといけません。
現在私の周囲では、分割よりも短縮の方向でデザインしている方が多いようです。
講義に使っていた時間を、事前の動画配信にしたり、グループワークの一部をオンラインで個別に連絡を取り合って取り組んでもらうホームワークにしたりなど、ワークショップそのものの時間を短縮する方法はたくさんあります。
参加者にとって、結果的に学習に取り組む時間は短縮されない、あるいは逆に長くなることもあるのですが、オンライン化の良いところは、時間や場所の制約を最小限にできるところです。ワークショップという一つの場を時間的に「分割」するのではなく、参加者個々の場と時間を「分散」することで、より柔軟に学習ができます。
オンラインでは、コンテンツの時間をどう調整するかという考え方から、自律分散型で、受講者にとっての学習の時間をどう柔軟に活用してもらうか、というデザインの思想が重要になってきます。
「顔出し」を当たり前にしない
ワークショップや対話のイベントでは、Face to Faceの要素が重要です。従来のFace to Faceはリアルの場に対して使う言葉でしたが、今のビデオ会議システムの高機能化は、Face to Faceをバーチャルな空間でも実感させるものになってきました。
ビデオ会議システムを使いながら、Face to Face感覚を持てるのは、ファシリテーターにとっても、参加にとっても素晴らしい恩恵なのですが、一方で、オンラインだからこそ、顔を出さずに気軽に参加したい、あるいはビデオをオンにしたくとも、ネット環境などの要因で、ビデオをオンにできない場合もあります。
ネット環境が十分でない方をメインの対象にワークショップをすることが多いので、基本的にビデオオフを前提にワークショップを運営しているという企業もあります。
実は私自身、オンラインでのワークショップをやり始めた頃は、参加者はビデオをオンにするのが当たり前だと感じていたのですが、オンライン化が、参加の柔軟性を高め、参加のハードルを下げるものだとしたら、オフラインにおけるFace to Faceの感覚をオンラインに持ち込むのは最適ではないと感じるように変化してきました。
顔が見えないことによるメリット・デメリットについて議論していると、
・参加者の反応が読み取りにくい
・アイコンタクトでエンゲージできない
など、主にファシリテーター視点でのデメリットが多く指摘される一方、参加者にとっては、
・安心して参加できる
・服装や身だしなみを気にせず参加できる
・内職しながらでも参加できる
という風に、心理的安全性が高くなるという声が多く聞かれます。
私は、オンラインの場というのは、参加者のホームに、ホストやファシリテーターがアウェイとして乗り込んでいくわけですから、参加者の心地よさを優先すべきであり、ファシリテーターのやりやすいように環境を変えることは、オンラインの恩恵をむしろ損なうことであると考えます。
参加者の顔が見えず、表情によるレスポンスやアイコンタクトがない、不安な環境の中で上手にワークショップを運営していくことは、これからのオンラインワークショップにおいてファシリテーターが乗り越えていくべきチャレンジであると考えます。
声だけで成立する仕掛けを考えるべき
それでは、顔出しをしない中で、どのように相互アクションを促進していけばいいのでしょうか。表情が読み取りにくいといったエンゲージメント上の問題をのぞいて、顔が見えないことによる物理的な問題は、
・発言のタイミングがつかみにくい
・誰が発言しているかわかりにくい
・画面だけでクイックに同意が取りにくい
この大きく3つにあります。
たとえば、15名ぐらいが参加するワークショップで、全員のビデオがオフだと、いきなり何人かが同時にしゃべり出すと、どの人が最初にしゃべり出したのか、今どの人がしゃべっているのかよくわかりません。
全員のビデオがオンのときは、挙手をするなどして発言機会を与えることができますが、ビデオオフではそれができません。
そのような場合は、たとえばZOOMであれば、「挙手する」という機能の使用や、「反応」という機能で拍手やサムアップを表示する、あるいは発言機会を得る場合は口頭で「吉岡発言します」などと、発言のタイミングを得るルール決めておくと良いでしょう。
また、ビデオがオンの場合、「画面が見えてますか?」、「次に行っていいですか?」とファシリテーターが聞いて、参加者がOKマークして見せることで、クイックに同意を得るといったことができますが、これも声だけの場合は、ZOOMの「反応」機能のように、各参加者の画面上にグラフィックが表示される機能を使うなどすることで対応できるでしょう。
グループワークにおいては、声だけの場合、他の参加者がしっかりと参加できているかどうかが実感しにくくなります。
その対処法としては、現在もオンラインワークショップでよく使っていますが、Google Slideのような、一つの画面をシェアしてリアルタイムで共同作業できるようなツールを使うことで、相互アクションを実感しやすくなります。
顔が見えず、声を出さなくとも、画面に何か入力されているということで、共同作業が成立し、関わりも実感できるわけです。
Web上でリアルタイムで共同作業をシェアできるリモートワーク用のツールは、今現在さまざまなものがあり、日々新しいものが登場しています。
以下に、さまざまなツールの紹介ページがありますので、ぜひ参考にしてください。
※リモートワークに便利なツール
また、ZOOMのブレイクアウトセッションのような機能では、ビデオオンであれば6名でも成立するところを、声だけの場合3名程度にするなど、少し人数を絞るのも工夫の一つです。
ビデオオンであれば、あまり発言しなくても関わりを感じられますが、声だけで発言がないと、本当にそこにいるのかさえわかりません。少ない人数であれば必然的に関わり度合いも増してきます。
エンゲージメントという概念すら変化してきている
我々ファシリテーターにとって、エンゲージメントという概念は大切です。あえて横文字を使う必要もないのですが、エンゲージメントとは、人と人がつながってる感覚、場に対して気持ちが入っている感覚、ファシリテーターと参加者がうまくかみ合っている感覚など、対話の場がいい具合に盛り上がっている空気感のことを総称しています。
リアルの場では、ちょっとした空気の変化を微妙に感じることができ、それによって場全体が前向きになったり、沈滞したりしますので、前向きな空気感を醸成し、維持することは大事です。
オンラインの場あっても、全体が前向きになることは大切ですが、オフラインにありがちな前向きさを追求するあまり、一部の参加者には、心理的安全性が損なわれることもあります。
そもそも我々が当たり前のようにやっているアイスブレーク一つとっても、そういったアクティビティが苦手で、アイスブレークどころか、フリーズになってしまう人はけっこういるわけです。
オフラインでは多少ヨソ行きの顔で行儀良く振舞えても、自分のホームのオンラインになると、素直な感情が露わになり、ちょっとしたアイスブレークや関わり促進の試みが、逆にエンゲージメントを損なうこともあります。
もはやオフラインを前提としたエンゲージメントという概念自体が、オンラインにはマッチしなくなる、ということも考えるべきだと私は思います。
他の作業をしながら参加する、一時退席していても、後から記録の閲覧や動画配信でキャッチアップできる。一部の参加者がグループワークに積極的に参加しなくても、グループワークが十分成立する。このように、エンゲージメントを欠いても学習が成立するような柔軟なワークショップデザイン・運営が、これからのオンラインにおけるファシリテーターには求められていると、私は思います。
オンラインには、オンラインのマナーがある
私は、親しい人とのオンライン会議などでは、スナップカメラを使って自分の顔を面白おかしく表示したり、ふざけたバーチャル背景を使ったりしながら、いろいろと遊んでいます。
こういうことが、親しい間柄との場だけでなく、初めて研修に参加する場合でも許される、というのが、これからのオンラインコミュニケーションではないかと私は思います。
テレワーク中の方が、オンライン会議の時だけ、上半身スーツ姿になっているというのが、笑い話ではなく、実際にけっこうありますが、研修の間中、終始アバターソフトを使っているというのも有りですし、隣で子供が遊んでいる、時々お子さんが画面に登場する、というのも許されるのが、オンラインにおけるマナーとして定着していくのではないかと思っています。
やはり、自分のホームですから、自分が一番リラックスできる環境でコミュニケーションに参加できるようにすべきであり、そのような環境でオンラインなりのエンゲージメントを生み出していくのが、これからの時代のファシリテーターの役割であると私は思います。
(文責:株式会社ナレッジサイン 吉岡英幸)
This post is also available in:
English (英語)